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町の最新スポットのその先へ。四季を感じるお散歩コース
鳥が左右に羽を広げたような横長の形の佐久穂町、その真ん中あたりを縦に突っ切るのがJR小海線だ。
小諸方面からやってきた列車が町内に入り、最初に到着するのが「羽黒下駅」で、その次が「海瀬駅」。この2つの駅を結ぶ通りにある東町商店街は、数年前までは、地方によくあるシャッター商店街に見えた。ところが最近は次々と新しいお店がオープンし、ちょっとした注目エリアになっている。
その要因は、町内に私立の小中学校が開校したこと。子育て世代の移住が増え、町で商売を始める人が出てきた。東町商店街とその周辺では、2018年にドーナツ屋、2020年にカレー屋と蕎麦屋、2021年にジュエリー工房と本屋、2022年にはカフェとコミュニティスペース、カイロプラクティックサロンがオープンしている。
私自身も、新しい小学校に魅力を感じてこの町にやってきた。たまたま東町商店街に住居を見つけて暮らし始めたときは、こんな活気を予想もしなかった。今は周りに次々と素敵なスポットができるのを、「棚からぼたもち」の気分で眺めている。
なにか美味しいものを楽しみたいな、誰かとおしゃべりしたいなと思ったときは、これらのお店に行けば満たされる。なんてありがたい環境だろう。
でも、ちょっと一人で考えたい、あるいは考えすぎてしまう脳を休ませたい……というとき、私は商店街を通り抜けて「栄海橋(よしみばし)」に向かう。
老舗の旅館「海瀬館」と明治時代から続く「相馬醤油」、どちらも大きくて立派な建物の間の路地に入ると、その先に見えるのが栄海橋だ。
歩行者専用の橋の真ん中に立って左右を見渡せば、八ヶ岳と浅間山が望める。後ろを振り返れば羽黒山が迫る。川の流れは季節や天候、時間によって、キラキラと光っていたり、一部が凍っていたり、様々な表情を見せる。
こちらに来て驚いたのは、山や川、畑や道ばたの植物たちの様子が、一年を通してこんなにも変化するのだということ。
お盆を過ぎた頃から少しずつ寒さの気配が迫ってきて、遠くの山の頂上が白くなれば「ついに来た!」と思う。それは冬のほんの始まりにすぎなくて、雪が山肌を覆う部分が広がっていき、目の前の畑にも霜がキラキラと光るようになって、寒さはどんどん深まっていく。
冬が遠くの山から近づいてくるように感じるのに対し、春は足元からやってくる。あるときふと、枯れ草の間に顔を出す花の色。それが少しずつ広がって、気づけば山頂の雪も溶けていて、緑の中に白やピンクが広がっていく。その様子を眺めるときの、浮き立つような気持ちはなんともいえない。
栄海橋を引き返し、海瀬館の前をもう少し海瀬駅方面に進み、家々の間の路地を抜けて線路脇の畑の中を歩くのも楽しい。
夏から秋にかけては、水路の流れる音や鳥や虫の声に耳をすませて歩く。畑の野菜のつやつやと光る様子に注目していて、ふと視線を上げると目の前にプルーンがたわわに実っていたりする。
今ここで聞こえる音、見えるものに集中しながら歩を進めているうちに、ふと「あ、そうか」と、悩んでいたことの突破口が見えることも。
そんなときは「kokyu」に飛び込んでコーヒーを注文し、忘れないうちにメモをする。
いつもそんなひらめきがあるわけではない。それでも、小さな散歩で頭がスッキリしたら、そろそろ帰る頃合いだ。
お土産に「mikko」のドーナツか「幸盛堂」のあんばたぁどら焼きでも買って帰ろうかな、と考えを巡らせるのも、また楽しい。
文:やつづか えり
働き方や組織についての記事を専門とするフリーライター。
2020年春に佐久穂町に移住し、場所にとらわれない仕事と地域と関わる仕事の2つを両立する働き方を実践中。一児の母。
Caffe/Lunch
mikkoドーナッツ カフェ
ドーナツ カフェ mikko は、海瀬駅から徒歩4分、「佐久穂町こどもセンター さくほっこ」の近くにあります。ドーナツは地元の有機小麦を使用した、カルダモン・プレーン・シュガーと季節のドーナツ。美味しいコーヒーの他、チャイラテもドーナツにピッタリ。
ところで、海瀬駅は「日本一海から遠い駅(112.772km)」と近年認定されたチョッと話題のJR駅。だから、という訳ではありませんが、街中から駅にたどり着くのはチャレンジしがいがあります。(駅への通路が見つけにくい)
※JR小海線・海瀬駅から400m、徒歩4分。羽黒下駅からは900m、徒歩11分。国道141号からは、千曲病院入口信号から東(国道299号)に約700mの「こどもセンター さくほっこ」の西側。
KOKYUカフェ
「大人から子どもまで地域の人たちが気軽に集える場を」という願いから生まれたコミュニティカフェバー。KOKYU の名前は呼吸から。日替わりで色々な人がカフェやバーを開き、呼吸するように場所や時間を共有することで、そこに居る人と生き方や考え方を交換する場所。例えば、2023年3月の営業カレンダーは、カフェタイムが10時から16時半、バーが17時から21時半、モーニングが月・水・金曜日の8時から10時。他に、毎週月曜日のオーナーが「hibiのおやつ」、毎週火曜日は、お店を出したいオーナーさんを募集して。毎週木曜日は、「スパイスキッチンモルチャン」。毎週金曜日のオーナーは「ありがとうや」、といった編成。お店に行く度に新しい出会いがありそうですね。営業内容や店休日は、Instagramで要チェック。
※JR小海線・羽黒下駅からは550m、徒歩7分。国道141号からは、高野町信号を東に入り県道佐久川上線・東町の信号から南に240m。
甲の池料理店
JR小海線・羽黒下駅から南に少し行くと東町と呼ばれる商店街が300mほど続く。かつて羽黒下駅には地域で伐採された木材が集まり首都圏等に運ばれた。木材を下ろし代金を得た村の人々は身も心も軽くなり、芸者さんが数十人いた花街の東町でお金をおとすこともあったそう。林業の興隆は昭和初期から昭和40年頃まで続いたが、林業の衰退につれ多くのお店がシャッターをおろした。甲の池は、東町が繁栄を極めた頃から100年近く続くお店。女将さんが小窓に並べる焼き鳥は、たいそう美味しく多くの近隣の人々が買い求めにくる。
※羽黒下駅から徒歩5分。国道141号からは、高野町信号を東に入り県道佐久川上線・東町の信号の近く。
カフェやレストランではありませんが、東町の散策をより楽しくするお店をご紹介します。
♡ GURURITO(グルリト) ジュエリー工房
「GURURITO」は、囲炉裏をぐるりと囲んで自分の手を動かし、ものづくりの楽しさに出会える体験型のジュエリー工房です。東町商店街の元洋品店をセルフリノベーションして、2021年6月にオープンしました。結婚指輪、シルバーリング、バングル、ベビースプーンなど、本格的な彫金技法を用いて、2~3時間で手作りして、当日持ち帰ることができます。工房の皆さんが近隣のお店と始めた「サンデーマーケット」も楽しい催し。出店者がこのときだけ用意する食べ物もありますので、是非時間を合わせてご来場ください。
※JR小海線・羽黒下駅からは550m、徒歩7分。国道141号からは、高野町信号を東に入り県道佐久川上線・東町の信号から南に240m。
※Instgram 等で営業日をご確認ください。
📖 新駒書店
新駒食堂として長年地域の人々に親しまれてきた古民家が、素敵な書店に生まれ変わりました。翻訳出版プロデューサーとして国内外の出版をつなぐ仕事をしているオーナーが、ご夫婦でオペレーションするお店。本棚に並ぶ本は、古本もあれば新刊もあります。お二人の「読んで欲しい!」の気持ちがこもった書籍ばかり。お子さん向けの本もありますし、来店者がリラックスできる空間もありますで、お一人でも、カップルでも、ご家族連れでも是非除いてみて下さい。
場所は、「GURURITO」のお隣で、駐車場もあります。
※JR小海線・羽黒下駅からは550m、徒歩7分。国道141号からは、高野町信号を東に入り県道佐久川上線・東町の信号から南に240m。
※Instgram 等で営業日をご確認ください。